突然おなかが痛くなって、トイレに駆け込んだ経験はありませんか。
下痢は、便が水のような状態になることを指します。
小腸・大腸の水分吸収が低下したり、胃腸から分泌される水分が増えたりすることが主な原因です。
下痢が起こりやすい場面としては、次のようなものが挙げられます。
・食べすぎ・飲みすぎの翌日
・冷たいものをたくさん食べたあと
・緊張やストレスが続いているとき
・体が冷えたとき
・寝不足や疲れが溜まっているとき
西洋医学では、ウイルスや細菌の感染、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、クローン病、大腸がんなどが慢性的な下痢の原因として挙げられています。
急性のものは暴飲暴食などの生活習慣が引き金になることが多いです。
ただ、「検査では異常がないのに、おなかがゆるい状態が続いている」「季節の変わり目に決まって下痢する」という方も少なくありません。
そのような場合、体全体のバランスから原因を探る東洋医学のアプローチが、糸口になることがあります。
今回は、東洋医学の視点から下痢の原因とタイプを詳しく解説します。
東洋医学で考える「下痢」の基本
東洋医学では、下痢のことを「腹瀉(ふくしゃ)」または「泄瀉(せっしゃ)」と呼びます。
形のある便ではなく、泥状・水様・未消化の便を排出し、排便回数が増加した状態を指します。
少し細かく言うと、「泄(せつ)」は希薄な便がゆっくりと排出される状態を、「瀉(しゃ)」は水のようにまっすぐ流れ出る状態を意味します。
東洋医学では、下痢は大便の性質・排便のパターン・全身の症状を組み合わせて原因を分類します。
「どんな便が出るか」「いつ起こりやすいか」「おなか以外にどんな不調があるか」といった情報が、タイプの判断に欠かせません。
また、東洋医学では消化・吸収を担う「脾(ひ)」と「胃(い)」の働きを中心に、「肝(かん)」「腎(じん)」などとのバランスが崩れることで下痢が生じると考えます。
単に「おなかが悪い」ではなく、どの臓腑(ぞうふ・内臓のこと)の乱れが関係しているかを見極めることが、治療のポイントになります。
下痢はどんなときに起こりやすいのか?
東洋医学の視点では、下痢が起こりやすい背景にはいくつかの共通したパターンがあります。
気候や環境の影響を受けやすい方は、梅雨時期や真夏に下痢が増えることがあります。湿気や熱、あるいは冷えが体の中に入り込み、胃腸の働きを乱すためです。
飲食の乱れも大きな引き金になります。冷たいものの摂りすぎ、脂っこいものの食べすぎ、暴飲暴食など、胃腸に負担をかける習慣が続くと、消化・吸収の機能が低下し、下痢につながります。
ストレスや感情の波も見逃せません。東洋医学では「肝(かん)」がストレスと深く関わっており、精神的な緊張や怒り・不安などが続くと、肝の機能が乱れて消化器系に影響が出ます。試験前や緊張する場面でおなかが痛くなるのは、まさにこのパターンです。
体質や加齢による虚弱(きょじゃく・体の弱り)も関係します。もともと胃腸が弱い方や、長期間の病気・疲労が続いた方、あるいは年齢を重ねて体力が落ちてきた方は、消化・吸収の力が慢性的に不足し、下痢が繰り返されることがあります。
このように、下痢の「引き金」は一つではありません。だからこそ、その方の体に合ったタイプを見極めることが、根本的な改善への近道になります。
東洋医学でみる下痢の6つのタイプ
東洋医学では、下痢を大きく6つのタイプに分類します。それぞれ原因・症状・治療のアプローチが異なります。ご自身の症状と照らし合わせながら読んでみてください。
タイプ① 湿熱(しつねつ)による下痢
高温多湿な気候や、脂っこいもの・辛いものの食べすぎが原因で、体の中に「湿熱(しつねつ・湿気と熱が混じった邪気)」が溜まることで起こります。
目安となる症状
- 突然の激しい下痢
- 黄色い水様便、あるいは膿や血が混じった便
- 便の臭いが強い
- 肛門がヒリヒリと熱く痛む
- 尿が赤みがかっていてスッキリ出ない
- おなかが張って膨満感(ぼうまんかん・おなかがパンパンになる感じ)がある
◎ 治法(ちほう・治療の方向性)
清熱利湿(せいねつりしつ)――体の中の熱と湿気を取り除き、胃腸の働きを落ち着かせます。
◎ 代表的なツボ
- 中脘(ちゅうかん)
- 上巨虚(じょうこきょ)
- 陰陵泉(いんりょうせん)
- 衝門(しょうもん)
- 曲池(きょくち)
◎ 養生のポイント
辛いもの・脂っこいもの・アルコールは控えめにしましょう。
夏場は特に食材の鮮度に注意し、こまめな水分補給を心がけてください。ただし冷たい飲み物の一気飲みは禁物です。
タイプ② 寒湿(かんしつ)による下痢
冷たいものの摂りすぎや、冷房の効きすぎ・梅雨時の湿気の多い環境など、体が冷えることで「寒湿(かんしつ・冷えと湿気)」が胃腸に侵入して起こります。
消化・吸収の力が低下した結果、下痢になります。
目安となる症状
- サラサラとした水様便が出る
- 悪臭はほとんどない
- おなかが痛む(温めたり、さすったりすると楽になる)
- おなかが張る感じがある
- 尿の量が多く、色が薄い
◎ 治法
温中散寒(おんちゅうさんかん)―胃腸を温めて冷えを散らし、余分な湿気を取り除きます。
◎ 代表的なツボ
- 中脘(ちゅうかん)
- 梁門(りょうもん)
- 腹結(ふっけつ)
- 足三里(あしさんり)
- 大横(だいおう)
◎ 養生のポイント
冷たい飲食物はできるだけ避け、温かいものを中心に食べましょう。夏でも冷房による体の冷えに注意し、おなかを冷やさないように腹巻きを活用するのもおすすめです。
タイプ③ 食積(しょくせき)による下痢――食べすぎタイプ
暴飲暴食によって飲食物が胃腸に停滞し、うまく消化できなくなることが原因です。
「食積(しょくせき・食べ物が詰まって停滞した状態)」が生じ、消化から排泄までの流れが滞った結果、下痢が起こります。
目安となる症状
- おなかが痛んだと思ったらすぐ下痢する
- 下痢したあとは痛みが和らぐ
- 便に強い臭いがある
- ゲップにも臭いがある
- 胃がもたれる感じがある
◎ 治法
消食導滞(しょうしょくどうたい)――滞った食べ物を消化し、腸の詰まりを解消します。
◎ 代表的なツボ
- 中脘(ちゅうかん)
- 腹哀(ふくあい)
- 大横(だいおう)
- 意舎(いしゃ)
◎ 養生のポイント
「腹八分目」を意識することが一番の予防です。食事はゆっくりよく嚙んで食べましょう。
食後すぐに横になる習慣も胃腸への負担になります。消化の良いものを中心に、しばらく胃腸を休ませてあげてください。
タイプ④ 肝気犯脾(かんきはんぴ)による下痢
ストレスや感情の急激な変化によって「肝(かん)」の働きが乱れ、その影響が消化器系(脾・胃)に波及することで起こります。
東洋医学では「肝気(かんき)が脾を犯す(おかす)」と表現します。いわゆる「ストレス性の下痢」に近いタイプです。
目安となる症状
- 下痢する前におなかが張る感じがある
- 精神的な緊張や怒り・不安などで症状が誘発される
- 脇腹(わきばら)が張って不快
- 食欲がない
- ため息やゲップが多い
◎ 治法
疏肝理気(そかんりき)・健脾和胃(けんぴわい)――肝の気の流れをスムーズにして、脾・胃の働きを整えます。
◎ 代表的なツボ
- 太衝(たいしょう)
- 内関(ないかん)
- 期門(きもん)
- 梁丘(りょうきゅう)
- 輒筋(ちょうきん)
◎ 養生のポイント
ストレスを溜め込まないことが根本的な対策です。
深呼吸・軽い運動・好きな音楽を聴くなど、自分なりのリラックス方法を持ちましょう。
怒りやイライラは肝を傷めるといわれているため、感情をうまく発散させることも大切です。
タイプ⑤ 脾虚(ひきょ)による下痢
もともと消化器系が弱い体質や、食事の乱れ・過度の疲労・長期の病気などによって「脾(ひ)」の機能が低下した状態です。「脾虚(ひきょ・脾の働きが虚弱になること)」によって消化・吸収力が落ち、慢性的な下痢につながります。
目安となる症状
- 便が希薄(きはく・水っぽい)で、未消化のものが混じる
- 脂っこいものを食べると下痢しやすい
- 食欲がない
- 食後におなかが張る
- 顔色が黄色っぽい
- 心身ともに疲れやすい
◎ 治法
健脾益気(けんぴえっき)――脾の機能を高め、気を補って消化・吸収力を回復させます。
◎ 代表的なツボ
- 足三里(あしさんり)
- 三陰交(さんいんこう)
- 陰陵泉(いんりょうせん)
◎ 養生のポイント
規則正しい食生活が基本です。脂っこいもの・冷たいもの・生ものは控えめに。消化の良い温かい食事をゆっくりと食べる習慣が、脾を養うことにつながります。無理な食事制限やダイエットは脾をさらに傷めるので注意が必要です。
タイプ⑥ 腎虚(じんきょ)による下痢
長期間にわたる下痢の持続や、加齢によって「腎(じん)」の力が低下することが原因です。
東洋医学では腎は「生命の根本エネルギー」を蓄える臓器とされており、腎が弱ると消化・吸収の力も落ちてしまいます。
「五更泄瀉(ごこうせっしゃ・夜明け前の下痢)」とも呼ばれる特徴的なパターンが見られます。
目安となる症状
- 下痢が長期化してなかなか治らない
- 夜明け前(午前4〜6時頃)に下痢が起こりやすい
- 未消化の便が出る
- 体が冷える
- 膝や腰が重だるい
- 下腹部に冷えを感じる
◎ 治法
温補脾腎(おんぽひじん)――脾と腎を温めて補い、消化・吸収の力を回復させます。
◎ 代表的なツボ
- 陰陵泉(いんりょうせん)
- 脾兪(ひゆ)
- 懸枢(けんすう)
- 中枢(ちゅうすう)
◎ 養生のポイント
腎を養うには、無理のない規則正しい生活が基本です。夜更かしや過労は腎を傷めます。体を冷やさないよう、特に下半身を温めることを意識してください。
【まとめ】下痢といっても「タイプ」が違えばアプローチも変わる

今回は東洋医学での下痢「6つのタイプ」をご紹介しました。
大切なのは、「下痢」という症状名だけで判断しないことです。
同じ下痢でも、体の中で起きていることはまったく異なります。
神奈川県横浜市神奈川区六角橋・白楽エリアの鍼灸マッサージ院 如月では、初めての方に丁寧な問診(もんしん・お体の状態をお聞きすること)と東洋医学的な診察をおこなっています。
「便の状態」「いつ起こりやすいか」「他にどんな不調があるか」など、細かくお聞きしながら、あなたの体に合ったタイプを一緒に見極めていきます。
・「検査では異常がないのに下痢が続く」
・「市販薬でも改善しない」
・「体質的に胃腸が弱い」
お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
【参考文献】
・『中医症状鑑別診断学』(東洋学術出版社)
・『中医証候鑑別診断学』(東洋学術出版社)
・『中医基本用語辞典』(東洋学術出版社)
