夢は毎日見ているものとされています。鮮明な夢は浅い睡眠段階である「レム睡眠」で見ると言われていますが、
レム睡眠のもつ「忘却機能」により、目が覚めても覚えていないことがほとんどです。
「多く夢を見る」ことは病気ではないですが、中には「悪夢に悩まされて日中の生活に支障が出る」という
声もいただきます。そこで今回は夢について、現代医学と東洋医学の観点から述べていきたいと思います。
夢のメカニズム
夢に関する一致した報告は多数あるものの、そのメカニズムはいまだに明らかになっていません。
ただ、現時点では『日中の記憶や情動が脳を再活性している過程』だと考えられています。
夢はレム睡眠、ノンレム睡眠ともに出現しますが、レム睡眠中の方が夢の出現頻度は高く、視覚イメージが明瞭で内容も鮮明です。
また覚醒時に覚えている夢は、レム睡眠中の夢であることがほとんどです。
悪夢についてー将来PTSD治療の治療に?ー
「長く不快な悪夢を繰り返し見る」という悪夢障害で見られる悪夢も、
レム睡眠だけでなく浅いノンレム睡眠でも生じます。
悪夢を見ることは悪いことではありません。少し不快な夢を見ることで、感情への反応が鈍化し、ストレスに対する耐性が高まる効果があります。
つまり悪夢は日常に起こりうるストレスを予行演習していると考えられるのです。
トラウマなどによる心的外傷後ストレス症候群(PTSD)でも、レム睡眠だけでなく、浅いレム睡眠中に悪夢が現れることがあります。
そして、レム睡眠がPTSDに効果的ではないか?という面白い報告があります。(2019・名古屋大学)
メラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)がレム睡眠中の記憶の消去に関わることを発見
MCH神経を活性化させることによる強い恐怖心を伴った記憶がトラウマとして残るPTSDの治療への応用も期待されているのです。
古典における「夢」の記載
「霊枢 淫邪発夢篇」では、『夢の内容』と『病んでいる臓腑&組織との性質』との密接な関係の見解が述べられています。
「夢を見ることが多い」というのは、一種の病理的な状態であり、なんらかの疾病との関係が重視されていたようです。完全一致はしないものの、診断をする上でのヒントとされていたことが考えられます。
「陰陽」・「身体の各部」・「五臓六腑」から27種類の夢を分別されていたことが記載されています。
中医学における「多夢」ータイプ別鑑別ポイントとおすすめのツボー
「多夢」とは「睡眠中、夢をみて悩まされること」を指します。
次々に夢を見る症状が続き、ビックリするような内容が多い。昼になると頭がぼんやりして、精神疲労も強い症状です。
正常な人は時折夢を見ることがあるが、目覚めたときに誰もが不快感を感じるわけではないので本症状には該当しないと言われています。
①心脾両虚ー心身疲労タイプー
五臓「心」・「脾」のトラブル。簡単に言うと、「心の元気と体の栄養が足りなくて、心も体も疲れている」という状態。
原因は飲食の不摂生や過労・考えすぎによる精神の消耗など。
飲食物から栄養素を取り込むことができず、精神の不調を招くことで多く夢をみることとなる。
(その他お身体に見られる症状)
不眠・顔色が青白い・動悸・食欲が減る・お腹が張って便がゆる・倦怠感(ダルい)
(治療)
健脾養心(胃腸を元気にして心の安定を保つこと)
(治療によく用いるつぼ)
霊道など
②心腎不交ー自律神経失調タイプー
五臓「心」・「腎」のトラブル。身体の陽気のコントロールする「心」と陰分をコントロールする「腎」。
活動と休息のバランスが崩れることにより、ココロとカラダが休まらない結果、多く夢が出現する。
(その他見られる身体の症状)
心がザワザワして眠れない・動悸・めまい・耳鳴り・夕方になると発熱・寝汗がすごい・喉が乾く
(治療)
・滋陰降火(体の潤いを補い、のぼせや熱っぽさを抑える)
・交通心腎(心と腎のバランスを整える)
(治療によく用いるつぼ)
太谿・復留・湧泉など
③心胆気虚ー不安タイプー
元々虚弱体質であり「心」・「胆」ともに弱りやすい。外的な要因から刺激を受けやすく、情緒が緊張して、心胆が損傷することで不安が引き起こされる。夢も多くみることが多い。
(その他見られる身体の症状)
悪夢でおびえる・ちょっとしたことで目覚めやすい・物音に敏感・ドキドキする
(治療)
・益気鎮椋(エネルギーを補って、不安や緊張を和らげる)
・安心定志(心を安らかにして、集中力や意志を強く保つ)
(治療によく用いるつぼ)
隠白・頭臨泣・中脘など
④痰火内擾ー水液ベタベタタイプー
病理物質「痰」が心神を錯乱することで夢を多く見る。ストレスによる怒りの感情・暴飲暴食などで生じた熱分により、痰が形成され、熱化した痰が心神を錯乱するとされる。
(その他見られる身体症状)
眩暈・動悸・痰が多く胸がつかえる・口が苦く粘っこい・舌の苔が黄色くベッタリついている
(治療)
清熱化痰(体の熱を冷まし、余分な痰や粘りを取り除く)
(治療によく用いるつぼ)
上脘・鳩尾・間使など
最後に
「夢」に関しては何かしらの「病気」ということではありません。
ただ「過度に夢を見ること」や「夢のせいで日中の生活に支障が出る」というご相談はよくいただきます。
予防医学や養生の観点から考えれば、これらは何かしらの心身の悲鳴とも捉えられます。
ご自身の健康状態は判断する上でのサインとなりますので、何かしらの参考になれば幸いです。
この「多夢」の症状に関しても、中国伝統医学での治療対象となりますので
お悩みの方はぜひ一度当院にご相談くださいませ。
※参考文献
「ビジネスに活かす睡眠資格 スリーププランナー」西野精治(著), 千葉伸太郎(著), 一般社団法人ブレインヘルスラボ
・「睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版」 じほう
・「今さら聞けない 睡眠の超基本」(今さら聞けない超基本シリーズ) 柳沢 正史 朝日新聞出版
・『漢方用語大辞典」 燎原書店
・『中医症状鑑別診断学』人民衛生出版
・『十四経発揮』 東医針法研究会編
・『現代語訳 黄帝内経霊枢 下巻』 東洋学術出版