「赤ちゃんのお世話をしていると、腰がズキズキして立っていられない」
「授乳の姿勢が続いて、腰から下がだるく重い」
「産後しばらく経つのに、腰の痛みがなかなか取れない」
出産後、こんなお悩みを感じている方は少なくありません。
産後の腰痛は、育児中のお母さんにとって非常によく見られる症状のひとつです。
日常の中でこんな場面に心当たりはありませんか?
- 抱っこや授乳のたびに腰に痛みが走る
- 朝起き上がろうとすると腰がこわばって動けない
- 寒い日や雨の日になると腰の痛みが強くなる
- 下腹部の痛みと腰の痛みがセットで出てくる
西洋医学的には、産後の腰痛は「妊娠中から産後にかけてのホルモン変化(リラキシンの分泌による骨盤・靭帯の弛緩)」「育児による前かがみ姿勢の継続」「睡眠不足や疲労の蓄積」などが主な原因として挙げられます。
骨盤ベルトや腰のストレッチが勧められることも多いでしょう。
しかし、「ケアしているのになかなか改善しない」「痛み方が日によって全然違う」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
東洋医学では、産後腰痛を「出産という大仕事によって生じた身体内部のアンバランス」ととらえます。
痛みの性質や出やすい状況によってタイプを分類し、そのタイプに合ったアプローチをすることで、根本からの回復をめざします。
この記事では、東洋医学の視点から産後腰痛の原因とタイプを丁寧に解説していきます。
東洋医学で考える「産後腰痛」の基本
東洋医学の古典(中医書)では、産後の痛みは「身痛(しんつう)(全身の痛み)」と「産後腰痛(さんごようつう)」に分けて記載されています。
それだけ腰痛は、産後の症状として独立して注目されてきた歴史があります。
東洋医学では、出産は「気(き)(身体を動かすエネルギー)」と「血(けつ)(栄養を全身に届ける物質)」を大量に消耗する出来事であると考えます。
陣痛・分娩・出血という一連のプロセスを経た身体は、エネルギーも栄養も著しく不足した状態にあります。
そしてこの「不足」が、さまざまな形で腰の痛みとして現れてきます。
東洋医学では「腰は腎の府(じんのふ)(腰は腎の支配する場所)」という考え方があります。
腎(じん)とは、生殖・成長・老化など生命の根本エネルギーを司る臓腑です。
出産で腎のエネルギーが消耗すると、腰に直接ダメージが及ぶと考えるのです。
また、エネルギーや栄養が不足することで血液の流れが滞り(これを瘀血(おけつ)といいます)、刺すような腰痛が生じることもあります。
さらに、産後の弱った身体は外からの寒さや湿気の影響を受けやすく、それが腰痛につながるケースもあります。
このように産後腰痛の「原因のタイプ」はひとつではなく、その方の体質・生活環境・痛みの性質によって異なります。
産後腰痛はどんなときに起こりやすいのか?
産後腰痛が起こりやすい背景には、いくつかの共通した状況があります。
- 出産直後から産褥期(さんじょくき)(分娩後6〜8週間)にかけて、身体の回復が追いつかないとき
- 授乳・抱っこ・おむつ替えなど、同じ姿勢を繰り返すことで身体への負荷が蓄積しているとき
- 睡眠が十分に取れず、エネルギーの補充ができていないとき
- 産後に冷たいものを多く摂ったり、冷房や冷えた環境にいることが多いとき
- もともと冷え性や生理痛がひどかったなど、産前から血の巡りが悪い傾向があった方
- 帝王切開や分娩時の大量出血など、出血量が多かった方
こうした背景が重なるほど、産後腰痛は長引きやすくなります。
次のセクションでは、具体的な3つのタイプに分けて解説していきます。ご自身の症状と照らし合わせながら読んでみてください。
東洋医学でみる産後腰痛の3つのタイプ
如月では、産後腰痛を大きく以下の3つのタイプに分けて考えます。それぞれに原因・症状・治療のポイントが異なります。
タイプ①――腎虚血虚(じんきょけっきょ)タイプ/エネルギー・栄養不足型
産後腰痛の中で最も多く見られるタイプです。出産という大仕事によって、生命力の根源である腎のエネルギー(腎気)と、全身に栄養を届ける血(けつ)の両方が消耗した状態です。
腎は腰と深く関わる臓腑であり、腎が弱ると腰を支える力が失われます。
また血が不足すると筋肉や組織への栄養供給が滞り、ぼんやりとした腰の痛みやだるさが続きます。
目安症状
- 腰がだるく、力が入らない感じがある
- 痛みはズーンとした鈍痛(どんつう)で、押すと少し楽になる
- 顔色が青白い、または艶(つや)がない
- 手足のしびれや知覚障害(ちかくしょうがい)を感じる
- 疲れると痛みが強くなる
◎治法
補腎益精・養血止痛(ほじんえきせい・ようけつしつう)(腎のエネルギーを補い、血を養って痛みを止める)を基本とします。
◎代表的なツボ
- 腎兪(じんゆ)
- 太谿(たいけい)
- 三陰交(さんいんこう)
- 志室(ししつ)
◎養生のポイント
- 黒豆・黒ごま・山芋・くるみなど、腎を補う食材を積極的に摂りましょう
- レバー・ほうれん草・小松菜など、血を補う食材も意識してください
- 無理のない範囲で十分な休養を取ることが最優先です
- 腰を温めるカイロや湯たんぽの使用がおすすめです
- とにかく早い時間に寝床につきたくさん眠ることも大切です
タイプ②――寒湿(かんしつ)タイプ/冷え・湿気型
産後は気と血の消耗によって、外からの邪気(じゃき)(身体に悪影響を及ぼす環境の要因)を跳ね返す力=衛気(えき)(外部環境から身体を守るエネルギー)が弱まります。
その結果、寒邪(かんじゃ)(冷えの邪気)や湿邪(しつじゃ)(湿気の邪気)が身体に侵入しやすくなります。
これらが腰部に停滞すると、気血(きけつ)の流れが妨げられて痛みが生じます。
冷房の効いた部屋・冷たい飲食・梅雨や冬など、冷えや湿気にさらされやすい環境が引き金になります。
目安症状
- 腰が冷えて重だるい
- 寒さや雨の日・気温の変化で痛みが強くなる
- 温めると楽になる
- 腰だけでなくお腹も一緒に冷える感じがある
- 身体全体が重く、動きにくい
- 足がむくみやすい
◎治法
散寒除湿(さんかんじょしつ)(温めて冷えを散じ、湿を取り除いて痛みを止める)を基本とします。
◎代表的なツボ
- 曲泉(きょくせん)
- 腰兪(ようゆ)
- 承山(しょうざん)
◎養生のポイント
- 冷たい飲み物・生野菜・アイスクリームなど、身体を冷やす食べ物は控えましょう
- お風呂はシャワーだけでなく湯船にゆっくり浸かることを意識してください
- 腹巻きや靴下で腰・お腹・足元を常に温めましょう
- 産後の冷房は直接当たらないように工夫してください
- 生姜・シナモン・ネギなど温性(おんせい)の食材を積極的に取り入れましょう
タイプ③――瘀血(おけつ)タイプ/血の滞り型
出産時の出血や産後の安静による運動量の低下、また分娩時の物理的な圧迫などによって、血液の流れが滞った状態が瘀血(おけつ)です。
川の流れが澱(よど)むように、血が滞ると痛みが生じます。
このタイプの腰痛は「刺すような」「場所が固定している」という特徴があります。夜間や安静時に痛みが強まることもあります。
悪露(おろ)(産後の子宮からの分泌物)の排出が不十分な場合も、このタイプが起こりやすいとされます。
目安症状
- 刺すような、または針で刺されたような鋭い腰痛
- 痛む場所が比較的固定している(押すと痛みが増す)
- 少し動くと痛みが和らぐ(軽いウォーキング程度で楽になる)
- 下腹部の痛みや張り感を伴う
- 悪露の量が少ない、または色が暗い・血の塊が出る
◎治法
活血化瘀・通絡止痛(かっけつかお・つうらくしつう)(血の滞りを解消し、経絡(けいらく)(気血の通り道)を通して痛みを止める)を基本とします。
◎代表的なツボ
- 帰来(きらい)
- 梁丘(りょうきゅう)
- 丘墟(きゅうきょ)
◎養生のポイント
- 無理のない範囲での軽いストレッチや散歩が、血の流れを促します
- 長時間同じ姿勢での授乳やスマホ操作は、こまめに姿勢を変えるように工夫してください
- 身体を締め付ける衣類は避けましょう
【まとめ】産後腰痛は「タイプ」を見極めることが大切です
ここまで、東洋医学の視点から産後腰痛の3つのタイプを解説しました。改めて整理すると、次のようになります。
- 腎虚血虚タイプ…エネルギーと栄養の不足が根本原因。だるい鈍痛を伴う。→補腎・養血が基本
- 寒湿タイプ…産後の弱った身体に冷えと湿気が侵入。冷えると悪化し、温めると楽になる。→温経・散寒・祛湿が基本
- 瘀血タイプ…血の滞りによる刺すような痛み。場所が固定し、下腹部痛を伴うことがある。→活血化瘀が基本
この3つは、単独で現れることもあれば、複合して現れることもあります。たとえば「腎虚血虚+瘀血」のように、エネルギー不足が血の流れの滞りを呼んでいるケースも非常によく見られます。
大切なのは、「産後腰痛」をひとくくりにせず、あなたの身体の今の状態をしっかり見極めることです。
横浜市神奈川区・白楽の鍼灸マッサージ院「如月」では、初診時に時間をかけた丁寧な問診(もんしん)を行います。
腰痛の性質(鈍痛か・刺すような痛みか)、出やすいタイミング(冷えると悪化するか・動くと楽になるか)、産後の経過、体質の傾向など、さまざまな情報をもとにタイプを見極め、その方に合った鍼灸治療と養生のアドバイスをお伝えしています。
「病院では異常なしと言われたけれど、ずっと腰が痛い」
「産後ケアで何かしたいけれど、何から始めればいいかわからない」
そんなお気持ちをお持ちの方も、まずはお気軽にご相談ください。あなたの「今の身体」に寄り添った治療をご提案します。
参考文献
・『中医症状鑑別診断学』人民衛生出版社
・『中医証候鑑別診断学』人民衛生出版社
・『中医基本用語辞典』東洋学術出版社
