腱鞘炎はじめ「産後の痛み」を東洋医学で解説

✅赤ちゃんを抱っこするたびに、手首や指のつけ根がズキッと痛む。

✅授乳のたびに親指の根元がひっかかる感じがする。

そんなお悩みを抱えながら、「でも赤ちゃんのお世話があるから休めない」と無理をされている産後のお母さんが、たくさんいらっしゃいます。

産後の腱鞘炎(けんしょうえん)は、出産後の女性に非常に多く見られる症状のひとつです。

特に次のような場面で痛みが出やすいといわれています。

  • 抱っこをするとき、特に赤ちゃんを持ち上げる瞬間
  • 授乳のため赤ちゃんを支えているとき
  • おむつ替えで赤ちゃんの足を持ち上げるとき
  • 哺乳瓶や搾乳器を握ったり操作したりするとき
  • 沐浴のときに赤ちゃんの体を支えるとき
  • 朝起きたとき、手首や指がこわばって動かしにくいとき

西洋医学では、産後の腱鞘炎は主に腱(けん:骨と筋肉をつなぐ組織)と腱鞘(けんしょう:腱を包むトンネル状の組織)の摩擦による炎症として説明されます。

産後はホルモンバランスが急激に変化し、関節や腱まわりの組織がゆるんだ状態になります。そこへ慣れない育児による手指・手首への過度な負担が重なることで、炎症が起こりやすくなると考えられています。

しかし、「安静にしていなさい」と言われても、お母さんは赤ちゃんのお世話をやめるわけにはいきません。

また、「なぜ同じ育児をしているのに、ならない人とつらい人がいるのだろう?」と感じた方もいるのではないでしょうか。

東洋医学では、こうした「なりやすい体質の差」や「体の内側からの原因」に目を向けます。同じ腱鞘炎でも、その方の体の状態によって原因が異なり、アプローチも変わってきます。以下で詳しく解説していきます。


東洋医学で考える「産後の腱鞘炎」 とは?

中医書(中国伝統医学の古典)には「産後身痛(さんごしんつう)」という概念があり、産後に全身や関節・筋肉に痛みが出やすいことが古くから記述されています。腱鞘炎もこの産後身痛の枠組みで理解することができます。

産後の腱鞘炎が起きやすい背景には、体の内外からのいくつかの要因が重なっています。

  • 血(けつ)の消耗:出産・授乳で血が大量に使われ、腱や筋肉への栄養供給が低下する
  • 血の滞り(血瘀:けつお):産後の体の変化や、同じ姿勢での授乳・抱っこにより、血の流れが滞りやすくなる
  • 外からの寒さ・湿気の影響(風寒・寒湿):産後に体の防御が弱まっているところへ、冷えや湿気が入り込んで腱のめぐりを妨げる
  • 睡眠不足・疲労の蓄積:睡眠不足が続くと血の回復が遅れる
  • 食事が十分にとれていない:育児の忙しさで食事が偏ったり食べる時間がなかったりすることで、血を生み出す力(脾胃の機能)が落ちる
  • ストレス・緊張の持続:はじめての育児の不安や緊張が続くと、気の流れが乱れ、血の流れにも影響する

つまり産後の腱鞘炎は、「使いすぎ」だけが原因ではなく、体の内側の状態(血の量・流れ・体の防御力)が整っているかどうかが大きく影響しているのです。

同じように育児をしていても腱鞘炎になりやすい方とそうでない方がいるのは、このような体の内側の差が関係していると東洋医学では考えます。


東洋医学でみる「産後 腱鞘炎」 の3つのタイプ

産後の腱鞘炎を東洋医学的に大きく分類すると、主に以下の3つのタイプに整理できます。

ご自身がどのタイプに近いかを確認してみてください。なお、実際には複数のタイプが混在することも多く、最終的には鍼灸師による丁寧な問診・診察(望診・聞診・問診・切診)が必要です。

タイプ①――血虚(けっきょ)タイプ|栄養が足りず腱が養われない

目安症状

  • 手首・指のつけ根がだるいような、しびれるような痛みがある
  • 育児で睡眠があまり取れていない
  • 顔色が青白い、または血色が悪い
  • 動悸(どうき)がしやすい、息切れしやすい
  • 体がだるく、力が入りにくい
  • 爪が薄い、割れやすい
  • 目がかすむ、めまいがする
  • 授乳をよくしていて、母乳の量が多い
  • 食事が十分にとれていないと感じる

◎治法

補血養筋(ほけつようきん):血を補い、腱や筋肉に栄養を届けることで痛みを緩和します。

◎代表的なツボ

  • 血海(けっかい)
  • 三陰交(さんいんこう)
  • 膈兪(かくゆ)

◎養生のポイント

  • 血を補う食材を意識してとりましょう。レバー・ほうれん草・にんじん・なつめ・黒ごまなどがおすすめです。
  • 授乳中は特に血を消耗します。食事をしっかりとることが養生の基本です。
  • 目を使いすぎると血を消耗します(東洋医学では「久視は血を傷る」といいます)。スマートフォンの使用はなるべく控えめに。
  • 睡眠は血を回復させる大切な時間です。赤ちゃんが寝ているときにできるだけ一緒に休みましょう。

タイプ②――血瘀(けつお)タイプ|血の滞りが腱に詰まる

目安症状

  • 手首・指のつけ根に刺すような、またははるような強い痛みがある
  • 痛む場所がはっきりしていて、動かすと痛みが強くなる
  • 患部を押すと痛みが増す(圧痛がある)
  • 朝のこわばりが強く、動かし始めが一番つらい
  • 産後の悪露(おろ:産後の子宮からの分泌物)がなかなかきれいにならなかった

◎治法

活血化瘀(かっけつかお):滞った血の流れを活発にし、経絡(気血の通り道)を通じさせて痛みをやわらげます。

◎代表的なツボ

  • 外関(がいかん)・間使(かんし)など

◎養生のポイント

  • 冷えは血の滞りを悪化させます。手首・指先を冷やさないように心がけましょう。特に水仕事のあとはしっかり温めて。
  • 同じ姿勢での授乳・抱っこが長時間続くと血が滞りやすくなります。こまめに姿勢を変えたり、手首をゆっくりと動かしたりしましょう。
  • 血行を促す食材として、玉ねぎ・にら・ターメリック・黒酢・サフランなどが参考になります。
  • ・入浴(シャワーだけでなく湯船につかること)は全身の血行を促すのでおすすめです。赤ちゃんのお世話の合間にぜひ。

タイプ③――風寒湿(ふうかんしつ)タイプ|外からの寒さ・湿気が腱に入り込む

目安症状

  • 手首・指の痛みが、天気が悪い日や雨の日、寒い日に特に強くなる
  • 患部が冷たく感じる、または温めると楽になる
  • 痛みとともに重だるい感じや、腫れぼったい感じがある
  • 首の後ろや背中が硬く張りやすい
  • 体全体が寒さを嫌がる、冷えやすい
  • 産後に冷たい水をよく使った、または冷房にあたることが多かった
  • 体がむくみやすい

◎治法

祛風散寒(きょふうさんかん):外から入り込んだ風・寒・湿の邪気(じゃき:体に悪影響を及ぼす外部の要因)を追い出し、経絡の流れを回復させます。

◎代表的なツボ

  • 風池(ふうち)大椎(だいつい)・曲池(きょくち)など

◎養生のポイント

  • 産後の体は外邪(特に寒さ・湿気)をとても受けやすい状態です。水仕事のときはゴム手袋を使い、冷水への直接接触をできるだけ避けましょう。
  • 冷房や扇風機の風が手首・腕に直接あたらないよう気をつけましょう。
  • 生姜・ネギ・シナモンなど、体を温める食材を日常的にとり入れましょう。
  • 手首・手指を温めるためにレッグウォーマーをリストウォーマーとして活用するのもひとつの手です。

【まとめ】産後の腱鞘炎、あなたはどのタイプ?

産後の腱鞘炎を東洋医学の視点で整理すると、大きく以下の3つのタイプに分かれることをご説明しました。

  • 血虚タイプ:血が不足し、腱・筋肉に栄養が届かないことで起こる。だるいような鈍い痛みで、顔色の悪さ・疲労感・動悸をともなうことが多い。
  • 血瘀タイプ:血の流れが滞り、腱のめぐりが詰まることで起こる。刺すような・はるような強い痛みで、患部を押すと痛みが増し、朝のこわばりが強いことが多い。
  • 風寒湿タイプ:外からの寒さや湿気が体に入り込み、腱のめぐりを妨げることで起こる。天気や気温の変化で痛みが変わり、温めると楽になることが多い。

もちろん、実際には「血虚があり、そこへ寒さも入り込んでいる」「血瘀と血虚が混在している」など、複数のタイプが組み合わさっているケースも少なくありません。

また、産後の体の状態は日々変化しますので、今日の状態が来月と同じとは限りません。

横浜市神奈川区六角橋・白楽エリアの鍼灸マッサージ院如月では、初めてご来院の方に丁寧な問診・東洋医学的な診察(脈診・腹診・舌診など)を行い、その方のその日の体の状態をしっかり把握したうえで治療方針を決めています。

「腱鞘炎」という症状名だけで一律に対応するのではなく、「なぜこの方に、今この痛みが出ているのか」を丁寧に読み解くことを大切にしています。

産後のお体はとても繊細です。赤ちゃんのお世話があるなかで無理をされているお母さんたちに、少しでも楽になっていただけるよう、如月はお手伝いしたいと思っています。

「なんとなく当てはまるかも」と感じたタイプがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。


参考文献

・『中医症状鑑別診断学』(人民衛生出版社)

・『中医証候鑑別診断学』(人民衛生出版社)

・『中医基本用語辞典』(東洋学術出版社)

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